道具屋殺人事件/愛川晶

道具屋殺人事件1

   落語に造詣の深い作者の、落語や寄席を舞台としたミステリー作品の第1作である。発表は2007年、平成の落語ブームの最中とは言うものの、正面から落語に取り組んだミステリーが売れるという確証はなかったと思われる。しかし作者の特別な思い入れのこもったこの作品は、落語ファンをはじめとした多くの読者の支持を得て、愛川晶の代表作の一つとなった。その後「神田紅梅亭寄席物帳」としてシリーズ化され、全6作が刊行されている。

内容(「BOOK」データベースより)
   自らの扇子を忘れた前座が、楽屋にあった扇子を借りて高座に上がり、『道具屋』を演じている最中、短刀に見立てた扇子の中から血まみれのナイフが現れた!? 表題作「道具屋殺人事件」をはじめ、「らくごのサゲ」「勘定板の亀吉」を収録。 真打ちを目指し、日々修業に励む二つ目の・寿笑亭福の助が、千葉県房総でリハビリ中の師匠・山桜亭馬春の助言を得つつ怪事件に挑む! 〝落語ミステリ〟の異才が放つ珠玉の三編。

   落語をよく聴いている人でも知らない噺や業界の内幕が紹介されていて興味深い。狂言廻しは福の助の妻である亮子。噺家の妻ではあるが落語や寄席については知らないことが多く、読者の代わりに質問役を務める。従って落語についてほとんど知らない人の落語入門書としても楽しめるのではなかろうか。

   同じ作者の別のシリーズで、実在の噺家・林家正蔵(彦六)が探偵として活躍する「昭和稲荷町らくご探偵」シリーズについては以前このブログで紹介したので興味のある方は参照されたい。(下のタグ・林家正蔵をクリック)